月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「とっくにしてる。出ないんだ」

 ああ……そうだよね。具合悪くて倒れてるとか、出かけてるのか……。学校が嫌になったとか。

「家でぶっ倒れているんじゃないと良いけどな」

 なんて不吉な。吉永先生はもちろん冬海のバイトのことを知らない。知ってたら大変だけど。

 学校のこと、授業のこと、生徒会のことなんかを電車の中で先生と話した。進路のこととか。そんなことも考えないといけないんだった。

 あたしはすっかり自分が高校生で、先の自分を考えないといけないっていうのをすっかり忘れていた。冬海のことで頭が一杯で。

 冬海は、高校を卒業したらどうするんだろう。お金を稼ぐなら、ちゃんと働いて……。

「降りるぞ」

 吉永先生の声にハッとした。
 電車のドアが開き、ホームに降りる。1人で電車に乗って帰った時のことを思い出す。2人で電車に乗って、冬海のアパートに行って、そして……。

 やめよう、辛くなるだけだ。


「幸田は園沢の家に行ったことあるのか?」

「あります。1回だけ……」

「んじゃ案内してくれ」

「は? 先生知ってるんじゃないの?」

「知らねーよ。住所と地図持ってくるの忘れたし」

 相手が先生じゃなかったら転ばせてる。


「あたしが園沢くんの家に行ったことが無かったらどうするつもりだったんですかー!」

「そしたら担任に電話かなぁ」

「テキトー……」

「そう言うなよ。今日は幸田に会ったから行くなら今日だと思っただけだよ。カタいこと言うな」

「教師……この人は教師……」

「なにブツブツ言ってんだよ」

 とにかく、1回行っただけの記憶とカンを頼りに、冬海のアパートへと先を急ごう。

 ほんと、この先生疲れる。良い先生だけど……良いのか? 分からない。

 あの日、冬海と寄った駅前のコンビニを横目に吉永先生の前を歩いた。

 陽が沈みかけていて、だいぶ暗くなってきている。街灯が点き、車はライトを。家々からは灯りが見え始める。



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