月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「ごめん、センパイに電話するしか……思い浮かばなく……て」

 弱々しくまた微笑む。

 あたしはたまらずに冬海の胸に顔を埋めた。涙が止まらないし、それをあんまり見られたくない。

「い、痛い?」

「おお……痛てぇよ」

 呼吸に上下する冬海の胸。鼓動も聞こえる。

 生きていている。折れてない右手が、あたしの頭に添えられて、そこが温かくてまた涙が出た。



 ドンドン! ドアを叩く音にハッとする。

「幸田! 園沢いるのか!」

「先生!」

 吉永先生はあたしの声を聴くとドアを開けた。あたしと玄関先の床で寝ている冬海を見て、眉間にシワが寄る。

「なんだ、どうした園沢」

「なんか殴られたみたいで……あと左手の小指が折れてるって」

「なん……ひでぇ」

 ちょっと待ってろ、と先生はケータイを取り出して電話をかける様子だ。救急車を呼ぶよねたぶん……。こんな状態のまま置いておけない。

「せん、せ。救急車は止めてくれ!」

 冬海がかすれた声で叫んだ。冬海は体を見られたくないんだ……たぶん。

「だからってこのままにしておけないだろ。心配すんな」

 ケータイを耳に当てたまま、吉永先生はそう言った。「久しぶり、俺」と電話の相手を喋っている。どこへかけているんだろう……。


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