月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「床、痛くない?」

  冬海が頷く。痛くないわけないんだけど。テレビがある部屋を見ると、座布団が目に入った。あたしはそれを持ってきて、冬海の頭の下に折って入れてやった。

「俺の友達が来るから。病院へ連れて行く」

「先生……」

「そのまま放っておけないだろ」

 それを聞いて、冬海が体を起こそうとする。「冬海!」あたしはそれを支えた。体のどこにどんな傷があるか分からないから、触るのもためらってしまうけど。

「病院は……!」

「勘違いすんな。自分達だけでどうにかできると思ってんじゃねえよ」

 厳しい目だった。冬海は言葉を返せない。悔しそうな顔で何か言いたそうだったけど、黙ってしまう。

「いいから手当するんだ。安心しろ、友達の知り合いのところだから」

「そうだよ冬海、先生に任せよう。このまんまじゃ……」

 汚れたトレーナーの腕をさする。

 サラサラの髪の毛は乱れて、その前髪からのぞく肌には擦り傷とか切り傷。それを見ていると本当に胸が痛んだ。

 あたしは冬海の顔の血と傷を時々拭い続けて、吉永先生は床にあぐらをかいて座る。

 誰も言葉を発さないまま、数十分が経とうとしていた。


< 297 / 394 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop