月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 冬海は背もたれに深く寄りかかり、目を閉じている。

 濡れタオルを持ってきてしまった。これ要らないよね、病院に行くんだもん。

 あたしは後ろから、運転してる「タケ」と呼ばれた人のことをチラチラ見ていた。

 さっきは暗かったからよく見えなかったけど、そして今も車内は薄暗くてあんまり見えないけど、肩ぐらいの黒髪をハーフアップにしている。それが嫌らしい感じじゃなくてとてもかっこいい。

 耳たぶにはピアスがたくさん付いていて、ハンドルを握る指にはゴツい指輪、腕まくりした筋肉質の腕にはまくってるのに長袖ですかっていうくらいの刺青があった。

 ……怖いんですけど。怖いんですけど! なにこれ、この人と先生は友達なんですか!


「可愛い高校生カップルだねぇ。心配しないでねー優しいから俺。っていうか大丈夫?」

 運転席からそう言われた。イ、イケメンなんだけど、なんか不思議な、こういうのちょっと中性的っていうんだよね。

「そう言われると余計怯えるだろ」

「失礼なこと言うなよー」

「コイツ、タケっていうんだ。信用できるヤツだから安心するように」


 吉永先生は後ろを見て、運転席を指差す。「よろしくねー」と運転席のタケさん……が言う。

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