月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「入口開いてるはずだから。先に行ってて」
タケさんがハンドルを操作しながら言う。
吉永先生が真っ先に降りて行って、冬海が座っているほうのドアを開けた。
冬海は足を出すのも辛そうだ。ゆっくりと降りようとしていた。
「ムリすんな、乗れ」
吉永先生がしゃがんで背中を向ける。おんぶしてやるってことか。あたしは冬海の背中に手を添えて「ほら」と後押しする。
「……っ」
まるで倒れこむように、冬海は吉永先生の背中に体を預けた。そのまま吉永先生は冬海を背負って、病院の入口へと向かった。あたしも車から降りて後を追う。
自動ドアの入口は開いていて、靴を脱いでスリッパに履き替える。吉永先生は冬海をおんぶしているから、スリッパを出してあげた。
薄暗い院内。あまり広くは無かった。受付から白衣を羽織った、40歳くらいの、坊主頭の男性が出てきた。ここの先生かしら。
「君達か、こっちに来なさい」
彼か、と冬海の背中に手をやる。吉永先生が、暴行を受けてるらしいこと、手の小指が折れてるらしいことを伝える。
「連れて行ってくるから。幸田はここで待ってなさい」
「……はい」
一緒に行きたいところだけど、ここでわがまま言っても仕方がない。診察の為に廊下の奥に消えて行く背中達を見送って、あたしは待合スペースの長椅子に腰かけた。