月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「入口開いてるはずだから。先に行ってて」

 タケさんがハンドルを操作しながら言う。

 吉永先生が真っ先に降りて行って、冬海が座っているほうのドアを開けた。

 冬海は足を出すのも辛そうだ。ゆっくりと降りようとしていた。

「ムリすんな、乗れ」

 吉永先生がしゃがんで背中を向ける。おんぶしてやるってことか。あたしは冬海の背中に手を添えて「ほら」と後押しする。

「……っ」

 まるで倒れこむように、冬海は吉永先生の背中に体を預けた。そのまま吉永先生は冬海を背負って、病院の入口へと向かった。あたしも車から降りて後を追う。

 自動ドアの入口は開いていて、靴を脱いでスリッパに履き替える。吉永先生は冬海をおんぶしているから、スリッパを出してあげた。

 薄暗い院内。あまり広くは無かった。受付から白衣を羽織った、40歳くらいの、坊主頭の男性が出てきた。ここの先生かしら。

「君達か、こっちに来なさい」

 彼か、と冬海の背中に手をやる。吉永先生が、暴行を受けてるらしいこと、手の小指が折れてるらしいことを伝える。

「連れて行ってくるから。幸田はここで待ってなさい」

「……はい」

 一緒に行きたいところだけど、ここでわがまま言っても仕方がない。診察の為に廊下の奥に消えて行く背中達を見送って、あたしは待合スペースの長椅子に腰かけた。

< 302 / 394 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop