月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 すでにタケさんは自動販売機の前にスタンバっている。「俺はどーすっかなー」とコーヒーのあたりを指差していた。

「じゃあ、ココア」

「あったかいのでいいの?」

「はい」

「じゃあ俺もココアにしよ」

 マネされた。ガゴンという音が2回して「ハイ」とココアを渡された。

「あっち」

 缶がすごい熱くなっていて、思わず声が出た。タケさんも「あっつううー!」とか言っている。

「熱すぎじゃねー?」

 そう言いつつも、缶を開けて飲んだ。あたしも。甘くて温かくて美味しい。心が少し落ち着いたような気がした。

「……」

 今日会ったばかりだし、話することなんて無いんだよね。沈黙が重い。先生の友達なんですか、とか聞いた方がいいかな……。

「彼氏、ケンカでもしたの?」

 先に口を開いたのはタケさんだった。びっくりして顔を上げたら、真っ直ぐ見られて、言葉に詰まる。

「……いえ」

「酷くないといいね」

 骨折より酷いってなんだろう。想像もできない。骨折だって酷い。ケガだらけで、でも自力でアパートまで帰ってきたんだろう。ドアで力尽きて、あたしに電話して……。

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