月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 寝息は静かで、苦しんではいないようだ。少し安心する。

 タケさんに買ってもらったココアの缶を静かに床頭台へ置く。

 病院の貸し出しなのか、さっきまで来ていた洋服は脱がされて薄いパジャマのようなものを着せられていた。

 こんなに、傷だらけになって、きっと怖かったに違いない。間違ってれば命だって……。なんで冬海はこんなに自分の体を汚していくんだろう。

 こんなに苦しまないといけないんだろう。

 あたしは、泣いてばっかりだ。
 傷にガーゼを当てられて痛々しいけど安らかな寝顔を見て、涙が止まらない。声が出そうで、あたしは手の甲を口に押し付ける。噛みついても涙が止まらない。

 冬海を支えてやれって、吉永先生が言った。
 どう支えていいのか分からない。そばに居たいけど、冬海はそれで良いのかな。それを望んでるの?

 長いまつ毛が呼吸に揺れる。その目が開いてあたしを見る時、どんな表情をするだろうか。

 少しだけ、触りたい。起こさないように、頬に指を当てる。温かかった。この触った指から、あたしの想いが冬海に伝わればいいのに。

 静かな病室。冬海の寝息。

 初めて、1人になるのが怖いと思った。




 ***



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