月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「あ、あたしは……好きなん……」

「……もっと早く、ちゃんとこうすれば良かった」

 どうして。

「なんで……? あたしは!」 

 言葉が、喉が塞がってしまったみたいに、出てこない。代わりに、涙腺から涙が噴き出す。

「今まで……ごめん、センパイ」

 涙で冬海の顔がよく見えなくなっても、あたしは目を離したくなくて、じっと見ていた。そうしていたら、冬海が顔を逸らして、向こうを向いてしまった。

 帰ってくれって、言ってるみたい。


 別れよう、終わりにしよう。

 終止符はあたしの体に突き刺さって、グリグリと動いてるみたいだ。痛くて、苦しい。


「……!」

 あたしは立ち上がり、鞄を掴んで病室を走り出た。


 階段を駆け下りて、一番下まで来た時に、勢いでスリッパが片方吹っ飛んで行き、壁にぶつかって落ちた。ひっくり返っている。

 まるで、あたしみたい。

「……ふ……」

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