月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 こんな所で泣いてたら、誰かに見られる。おかしく思われる。あたしはぐっと歯を食いしばって、出口に向かった。靴を履きかえ、自動ドアを抜けると昨日乗ってきたタケさんの車があった。

 涙が止まらなかった。食いしばっても零れてしまって、どうにもならない。

 手で顔をぬぐって、もう一度お腹に力を入れて涙を我慢した。

 車の近くまで行く。
 窓を覗くと、吉永先生が居た。タケさんはどこに行ったんだろう。指でノックするとこちらに気付く。先生が車のドアを開けた。

「どうした。今、タケが朝飯を買いに」

「冬海が起きたんで、あたし家に帰りますね。さすがに」

 吉永先生の言葉を遮って、早口でそう言った。

「お? おお……じゃあ俺が病室に」

 泣いたのを気付かれても、きっと吉永先生は、感動して泣いたんだろうなんて思うに違いない。今は都合が良い。

「園沢の様子は?」

「もう行くんで、あとよろしくお願いしますねー」

「あ、ああ。分かった」

 先生の返事の途中で、あたしは小走りにその場から去った。もうここに居たくない。

 駐車場を抜けると、もう涙が我慢できなくなって、一気に溢れて止まらなくなった。

 手を口に当てる。指の間から涙も声も漏れる。


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