月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 腕組みを組み換えて、先生は窓のほうに顔をやる。

 左手の薬指にはシルバーのシンプルな指輪があった。こんな指輪、してたっけ? もう入籍したのかな。



「園沢……学校辞めた」


 先生の指輪を見ていたから、何を言われているのか分からなかった。

「入院中に退学願を渡されたんだ。書いてたみたいでな。お前には俺から言おうと思って」

 唇が、震えてしまって。

「知らなかった、だろ……?」

「……」


 自分の心臓の音が、うるさいくらいだ。

 こんなに次々と色々なことが起こって、止まるんじゃないかって不安だ。

「おばあさんのことも聞いたよ。働くから辞めますって言っていた。あのアパートも引き払うらしい」

「おばあさんも入院してるっ……て」

 目を閉じる。深呼吸する。

「どこへ……引っ越すんですか?」

「それは……教えて貰えなかった」

 あそこを引っ越すなら……もう本当に会えない……?

「……先生、冬海がバイトしてたの、知ってますか?」

 怖くて顏色をうかがうこともできない。あたしは吉永先生の顔を見ないで聞いた。声が震える。

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