月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 昨日よりは少し暖かいかもしれない。あたしは駅へと急いだ。

 友哉が教えてくれた場所は、大きなアウトレットモールがある港の方面で、本当はバスで行くのが楽だけど、電車に乗って、駅から歩いても行けたはず……。友哉に教えてもらった場所のメモを見ながら、考えた。

 慣れないバスに乗って迷うよりは、徒歩のほうが確実だ。そう決めて、駅へ向かう。

 午後の電車はわりと混んでいて、そういえば春休みなんだよねって気付く。あたしが見ているこの光景って他の学生から見ても「ああ春休みか」って思うんだよね。

 そう考えると不思議だった。

 電車内で鏡を取り出す。ちゃんとブローしたかった。急いで出てきたから、髪の毛が決まってない。リップクリームを出して、塗った。

 会えるだろうか。今日、絶対に居るかどうかなんて分からない。居ないかもしれない。もし、冬海じゃなかったら。友哉の見間違いかもしれないし……。

 電車のガタンゴトンという規則正しい音が、心音と重なる。電車に乗ると、いつもそうだ。

 ……なんでマイナスに考えてんの、ここまで来て。自分の目で確かめないと。前だってそうしたじゃないの。自分で行って確かめて。会うんだ冬海に。

 会って、そして……。



「お降りの際は、忘れ物などに……」

 車内アナウンスにハッとして、きゅっと唇を噛む。降りる駅だ。

 今までの、どんな時よりも緊張する。

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