月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「……居た」
一番後ろを付いてくる、細い作業服姿。
冬海だった。グレーの作業服と、白いヘルメット。そこから見える顔は、間違いない。冬海だ。
「と……」
どうしよう、道路の向こう側に渡ろうと思っても、車が来るから渡れない。
近くに横断歩道も無い。
目の前をその集団が通り過ぎて行こうとしている。囲いに入られたら、中に入ってしまったら……。
「冬海!」
大きな声は裏返っていた。
「冬海ー!」
もう一度呼んだ。今度はしっかり声が出た。
2車線の向こう側。
彼は少しゆっくり歩いて、顔を上げる。こっちに向けた顔、そして、目が合った。
そこだけ、切り取って浮かび上がったみたいだった。