月光レプリカ －不完全な、ふたつの－

　静かな部屋に、キーを叩く音だけがする。

　プリントは終わりまであと少し。時計を見ると、22：30を過ぎていた。ああ、ちょっと夢中になっちゃったな。

　机から立って、置きっぱなしにしてた鞄を開けた。携帯がピカピカと光っていた。

「え」

　美由樹からメールが１件。それと、着信があった。冬海から、だった。
　着信時間は……１時間くらい前。あたしは急いでかけなおした。パソコンに夢中になってて、気付かなかったんだ。

「……」

　ドキドキしていた。でも、ずーっとコールはしているけど、出る気配がない。そのうち留守番電話サービスに繋がってしまった。

「あ、あの、幸田です。電話出られなくてごめんなさい。またかけます」

　メッセージをとっさに残したけど、ちょっと後悔した。メールにすれば良かった、着歴は残っているんだし。

　なんだったんだろう。

　気にはなっていたけれど、それからお風呂に入って戻って来ても、歯を磨きに行っても、ベッドに入るまで、冬海から再びの着信は無かった。