月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 無言でパンを一気に頬張る冬海。ちゃんと食べてるんだろうか。

 おばあちゃん入院してるなら1人だろうし、どうしてるんだろうか。毎日コンビニで済ませてそう。

「……あのアパートにもう居ないんでしょ? 引っ越すって聞いたし」

「学校辞めてからすぐ引っ越そうと思ったんだけど、未成年だしゴタゴタしてたし、そうそう世間て甘くなくて困ってさぁ」

 パンを飲み込みながら、包みのビニールを握り潰している。

 予定通りに行かなかった時期は想像できないけど大変だったに違いない。


「いま働いてるところの社長が良い人でさ。会社借り上げのアパートに居るんだ。なんとかやってるし」

 さっきの作業服集団の中に、その社長さんも居たんだろうか。


「……辞めたから。あれ」

「……そう」

 辞めた。

 そう聞いてなんとも言えない気持ちになる。

 生きる手段だった、苦しくて、悲しい事実。冬海の優しさが、迷ってしまったから。


「1人で居る分には、ね。困らない」

「おばあちゃん、まだ入院してるの?」


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