月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 ビニールを握ったままの手が、顔へと動いた。見ると、目から大粒の涙。涙も夕陽に染まっていた。

「俺、バカだったし、独りになっ……」

 言葉が涙で詰まる。あたしも涙が落ちそうになったけど、ぐっと堪えた。

 辛いのはあたしじゃなくて、冬海。

「……う」

「冬海」

 声を押し殺して。口から呼吸が漏れて、でも涙が抑えられなくて、冬海は肩を震わせて泣いた。

「……独りにすんなよ、ばーちゃん……!」

 自分の太ももを、拳で叩く。涙が作業服にシミを作って、拳にも落ちる。


「俺も、死にたかった」

 流れ出る涙を止めてあげたいのに、何も出来ない。何も言えない。
 言葉が見つからないし、だからあたしは冬海の背中をさするしかできなかった。

「知ってる? 死のうと思っても、夕陽ってすげーキレイなんだ」

 おばあちゃんが亡くなって、1人でいくつの夕陽を見てきたんだろう。もっと早く、冬海のところに来れば良かったって、後悔していた。

「俺が死んだら、ばーちゃんが寂しがるしな」
  
「……うん」

 独りじゃないって、分かって欲しかった。


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