月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 目に入ってきた光景に、あたしは息をのむ。

 椿。

 濃い緑の葉の中に濃いピンク色の椿が一輪だけ、咲いてる。

 その木の下に居たのは、男の子……だよね。

 人形、かと思った。そのくらい綺麗な顔立ちの。

 カッコいいとか、可愛いとか、そういう魅力じゃなかった。
 少し無機質で、人間じゃないような、そんな感じ。色白で長い睫毛とピンク色の唇と。
 少し長めの黒髪は、風にそよいでいた。
 黒いダウンを着て、前を開けている。その中は制服姿だけど、うちの制服じゃない。

 目を閉じている。

 なに、してるの? 寝てるの? まさか、具合でも悪いとか?

「……ちょっと、あの!」

 あたしは、しゃがみこんで、肩のあたりを揺すってみた。

「……あ?」

 彼が目を開けた。目が合う。あ、やっぱり男の子だ。

 鳥肌が立った。寒いから? いや今日は暖かいんだって。茶色い瞳は、ぼんやりしていたけど、だんだんとあたしを捉える。


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