月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 あたしはとっさに手を振った。けれども冬海はあたしに気付かない。


 2人の距離、道路を挟んで約50mほど。

 たくさんの車が行き交う。

 すると、客待ちのタクシーの間を縫って、1台の白い乗用車が入ってきた。

 それは冬海の前で止まる。


 少しだけ左右に視線を走らせた冬海は、車の助手席に乗り込んだ。

 スモークが貼られていて、中が見えない。


 横断歩道の信号機が青になった。

 それを渡り始めると、冬海が乗った白い車が走り出し、ロータリーから出てきた。


 運転席の窓が半分開いている。 

 運転をしていたのは、40代くらいの女の人。……お母さん、だろうか。


 横断歩道を渡り終わって振り向いた時には、車は遠くへ走り去ってしまっていた。




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