月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「……」

 少し、振り返るのが怖かったけど、あたしはぎこちなく回れ右をして席に戻った。


 やっぱり、とか。ほらね、とか。聞こえてくる。小さな声で。


 数日前に美由紀が耳にした「中尾センパイと幸田晃・生徒会室で逢い引き? 疑惑」の噂は、このクラスまで届いていたのだ。

 直接聞いてくる人は居ないけど、ささやきって意外と聞こえるもんで。

 地獄耳の晃と人は呼ぶ。

 いや、別に誰も呼んでないけどさ。

 サイテー。


「言いたいヤツには言わせておけば。だって違うんだもんね」

 梓はそうサラリと言うけれど。


 あーめんどうだ。トラブルとか、いさかいとか、まっぴらごめんだ。

 中尾先輩、ファン多いからなぁ。あたし関係ないんだけど。

 先週やってたプリントの修正しに行くだけだから。それだけだから。

 人の噂も75日、本当にそうであって欲しい。めんどくさい。


「アキー、売店いこー」


 ああ、もう。早く行かなきゃ売店のメロンパン無くなるのに。もう無いかも。

 どんよりとした気持ちで、梓と美由樹を追いかけた。

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