月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「……」

 マミ先輩が、切れ長の目でこっちを見ている。メガネを隔てて。

「あの、あたしも帰らないと……」

 あたしは、椅子から立ち上がった。ガタン、と音が鳴ってしまった。

「幸田さん」

 マミ先輩の声が呼ぶあたしの名前は、自分のものじゃないみたいで。



「調子、乗んないほうがいいわ」


 背筋が冷えた。

 もしかしてさっきの話、聞いてたの?



「彼、ちょっとのぼせてるだけだと思う」

「あたし……あの」

「とにかく。ちゃんと断ってあげてね」


 マミ先輩、中尾先輩のこと……。

 腕を軽く組んで、マミ先輩はあたしをじっと見ている。



「か、帰ります」

 怖すぎる。

 マッハで準備して、逃げるように生徒会室を出た。

 ああいうのに関わっては、ろくな事が無いと思う。

< 59 / 394 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop