月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 ふと、視線を下げた時に当たったあの花壇。

 冬の日に冬海を見付けたあの花壇。人が立ってるのが見えた。


「……あ」

 こちらを向いた顔、冬海だ。

 何をしてるのか分からないけれど、とにかく冬海だった。すこし遠いけど、あたしには分かった。


 あたしは、考えるより先に走り出していた。

 近くの階段を2段飛ばしで駆け下り、花壇の方の出口へ全力疾走をした。

 行って何と声をかけるのだろう。それを走りながら考えた。

 この前のホームで電話した事とか、電車の窓からバイバイした事とか……。


 早く早く、あたしの足よ、もっと早く走れ。


「はぁ……はぁ」

 そして花壇に辿り着く。爽やかな風が花の香りを運んでくるだけで、そこには誰も居なかった。3階から走ってくる間に、冬海は行ってしまったのだろうか。


 木の陰とか、校舎の壁沿いとかを見てみたけれど、あの冬の日のように冬海が寝ていたりはしなかった。


「……なにしてんだろ」

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