見えない糸
糸の色
「先生には…私の治療の中で、過去の記憶の話をしていると思うの。どうやって話したらいいのか…」
「そうか…それじゃ紗織が小学校に入る前後くらいから教えてもらおうか」
「はい、じゃあ…」
『私が高谷を殺した』
その衝撃的な言葉を放った紗織。
あんなに泣き崩れていたのに、今はきちんと話をしようとしている。
彼女の話すこと全てが驚きの連続だろう。
でも、彼女の話を遮る事無く、ちゃんと話を聞いておきたい…
「私には兄弟はいません。お父さんとお母さんと私の3人家族でした。
幼稚園の頃までは、みんなで旅行に行ったり、近くの公園に行ったり…すごく楽しかった。
でも、今まで家族で公園に行っていたのに、お母さんが一緒に来なくなりました。
そして公園には知らない女の人が…
確か『お姉さん』と紹介されたと思います。
お父さんとお姉さんは、仲良く笑いながら話をしていました。
私は、そのお父さんの様子を見ながら、ブランコに乗ったり、滑り台で遊んだりしていました。
そして帰るとき必ず「お母さんには内緒だぞ」と言っていました。
お母さんが一緒に公園に行く時には、そのお姉さんはいませんでした。
それが、お父さんの浮気だと知ったのは、私が小学校に入学した後、両親の離婚で知りました。
お父さんが何も言わないで出て行ってしまって…
お母さんが1人で部屋で泣いていて…
何日も、何ヶ月も、暗い時間でした」