見えない糸
染まる糸

直次は、自分のしている事は何なんだろうと思った。

確かに紗織の失った記憶を取り戻したいと、その記憶の糸を辿れば本当の幸せが訪れるものと思っていたのに、幸せどころか、どんどん暗い世界に入り込むような感じになっている。

本当は…過去の記憶なんて必要なかったんだ。


「先生…せっかく思い出したんだから…今ここで止めたら、もう二度と言えなくなっちゃう…」

直次がもう一度言おうとしていたセリフが分かっていたようで、紗織のこの言葉を聞いてから、直次は最後まで聞こうと決めた。

「わかった。でも辛くなったら話さなくていいから、それだけは覚えておいてて。」

「うん。けどね、辛くなっても話さなければならないの」



紗織の決意は固かった。

< 106 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop