見えない糸
「お母さんは私からあの男を引き離してくれた。
私、お母さんにしがみ付いてワンワン泣いたの。
お母さんは『出ていけ!』って男に叫んだ。
そして私に『下に行ってなさい!』って。
私、言うとおりにしたの。
あの男に引っ張られて首元がのびてしまった服も直すことなく
1階へ駆け降りたの。
でも、すぐに引き返した。
台所にあった包丁を持って。
部屋に戻ったら、あの男は馬乗りになってて、お母さんの首に手がかかっていた。
血だらけの手で、血だらけになったお母さんの…
私…
アイツの脇腹めがけて包丁しっかり握ったまま、アイツにぶつかっていったの。
深く刺さったと思ったけど浅かったみたいで、ドラマみたいに倒れなかった。
アイツ、自分に刺さった包丁抜いて、お母さんを刺したら、今度はお母さんが死んじゃうって思ったから、その包丁を私が抜いたの。
アイツ、お母さんから離れて私に向かってきた。
すごい形相で睨みながら…
お母さん、アイツの頭に向かって何かを殴りつけて…
フラフラして背中向けたから、思いっきり…深く深く刺してやったの。」