見えない糸
紗織は、しばらく考えていた。

オジサンは、いつだって紗織の事を優先的に考えてくれた。
記憶の事だって、もっと前から治療も出来たはず。
それでも、その時にやらなかったのは、オジサンの考えがあったからに違いない。

ココアを飲み干し、また部屋に戻る。

『どうしよう…』

直次の部屋からは、まだ物音が聞こえる。

ドアをノックしようと、部屋の前まで行くけど、その先が出来ない。

やっぱり止めよう…
今日はもう遅いし…

自分の部屋に入って、アロマキャンドルに火をつけた。

本当は聞いてみたかった。
治療を始める事の意味を。

記憶が戻ったら、サヨナラしなきゃならないのかを。

「オジサンと離れたくないよ…」

お気に入りのクマの縫いぐるみを抱きしめながら呟いた。

誰が母親でも、誰が父親でも構わない。

でも、オジサンと別れるのはイヤだ。

紗織は、すすり泣いた。
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