見えない糸
仕事を早々に切り上げ、自宅に急いで帰った。

「ただいま」

いつも出迎えてくれる紗織の声が聞こえない。

「紗織?いるのか?」

やっぱり返事がない。

部屋にいるのか?
ノックをして声をかけたけど、紗織の気配すら感じない。

どこにいるんだ?

取り敢えず直次は鞄を自分の部屋に置いてリビングに入ると、テーブルの上に封の開いた手紙があった。

宛名は直次と紗織の連名になっていた。
差出人は書いてなかった。

『なんなんだ?』

手紙を読んで驚いた。


【紗織の過去を知っている】


便箋に、ただ1行それだけ書いてあった。

封筒には住所も書いていない。
切手も貼られていない。

差出人は直接ここに、これを投函したのだ。


ヤバイッ!

咄嗟に思った。


何が切っ掛けで記憶が戻るか分からない。
少し前に、このことについて話したばかりだから、尚更だ。

いつ投函されたんだろう…

これが投函された直後に、紗織が読んだら…
すぐに外に飛び出して、相手を探すに違いない。

「紗織ッ!」

直次は慌てて玄関を出た。

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