見えない糸
この重い空気を、テレビの音が何とかしてくれると期待したけど、ますます重くなってるような気がした。

お風呂でも何でも、適当な事を言って部屋から出たらいいのに、それをすると新聞の下にある手紙が気になる。

手紙だけ抜き取ったとしても、それを読んだであろう紗織の様子も気になる。


“手紙、読んだのか?”


そう聞いてしまえば簡単なのに…


「はぁ…」

直次は、今度は大きな溜め息をついた。

「オジサン、どうしちゃったの?ずっと溜め息ばかりじゃん。何か悩み事?」

紗織に聞かれ、答えに困った。

「何でもないんだ」

苦笑いして言うしか出来なかった。

「あのさぁ…」

紗織はココアが入ったカップをテーブルに置いて、真剣な眼差しで直次に言った。

「オジサンは何かあると顔に出るのよ。仕事なのか、それ以外かは分からないけど、悩んでたりすると溜め息も増えてくるのよ。アタシに話せる事なのか分からないけど、話せるなら話してよ…」

どうしたらいいのか...

ここまで言われてるのに、それでも黙ったままでいいのか、直次は悩んだ。

「オジサン、アタシに気遣いすぎてる。知らないとでも思ったの?隠した事も分かってるんだよ」

紗織はそう言うと、新聞の下の封筒を取り出した。




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