見えない糸
「はい...」

封の開いた手紙を、直次の前に差し出した。

「宛名はアタシの名前も書いてたから、オジサンより先に読ませてもらったよ」

「ああ...」


テーブルの上の完全に温くなった缶ビールを、紗織がキッチンまで持っていった。

「オジサン、次は何飲むの?」

「んー酒はもういいかな...コーヒーもらおうかな」

「わかった、でもインスタントでいい?」

「うん」

紗織は直次のマグカップを出し、ササッとコーヒーを淹れ、直次に手渡した。





また静かで重い時間が流れた。

手紙も読んでしまった以上、知らないフリする事も逃げる事も出来ない。

どうしたらいいのか…

直次はコーヒーを飲みながら、頭に入らないテレビ見つめていた。


「オジサン…」

重い空気を紗織の涙声が更に重くした。

「アタシは…誰なの?」

囁くような声で、直次に聞いた。


疑いの目で、大粒の涙を流しながら、真っ直ぐ直次を見ていた。














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