見えない糸
ゆっくり紗織の目蓋が開いた。
それを確認してから、落としていた照明を少し戻す。

「どうだ?大丈夫か?」

直次は自分の椅子に座って聞いた。

「大丈夫だけど…なんだか…」

ボーっとしたまま紗織が答えた。

「何だか?」

「不思議…」

「そうだろうな…始めての人は、みんな似たような事を言ってるよ」

「…そう…なんだ…」

直次はタバコに火を点け、深く煙を吸い込んだ。

「気分はどうだ?」

「んー良く分かんない…」

紗織は前髪を触りながら呟いた。

「部屋に戻るか?」

「…うん…すごく疲れた…かもしれない…」

椅子から立ち上がる紗織を支えながら部屋を出た。

ベッドに座らせると、そのままバタッと横に倒れた。

「おい…ッ」

「オジサン、おやすみ…」

そう言うと、あっという間に紗織は、寝息をたて眠ってしまった。

布団をかけて、静かに部屋を出た。

『ちょっと飲もうかな』

直次はビールを取りに行くため階段を下りた。







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