見えない糸
「ねぇ、オジサン…」
駐車場まで歩いていると、急に紗織が声をかけた。
直次はポケットから取り出したタバコをくわえて、これから火を点けようとする所だった。
「どうした?」
ライターの火が消えないように、風を気にしながらタバコを近付ける。
「オジサン、歩きタバコは格好悪いから止めて!」
ムッとしながら紗織は言った。
「いいじゃねぇか…もう車は目の前なんだし」
火が点いたタバコの煙を、深く吸い込んだ。
助手席のドアを開け、ちょっと膨れた顔をして乗り込む。
直次は紗織の表情を見て、フフッと笑いながら煙を吐き出し、
「そう怒るなって」
と声をかけた。
「オジサン医者なんだから…」
ウワッ!
紗織の“お小言”が始まったぞ…
『タバコくらい、ゆっくり吸わせてくれよ…』
心の中で、そう言いながら
うんうんと、紗織の話に黙って頷いていた。