見えない糸
「どうして…」
長かった髪は肩までバッサリ切られていた。

「お前の知り合いか?」
先輩医師が声をかけてきた。

「はい…よく顔を出す施設にいた女の子です。様子がすっかり変わってしまって…」

「外因性ストレスによる記憶障害だろう。自分の名前と生年月日以外、何も分からない状態だ。知り合いなら、お前が担当しろ」


直次は紗織の病室に入った。

「こんにちは、紗織ちゃん。オジサンの事は覚えてないかな?」

「こんにちは。どこで会いましたか?ごめんなさい…全然分からないんです…」

紗織は直次を見た後、伏し目がちに言った。

紗織は施設にいた事も、直次と顔を合わせていた事も覚えていなかった。

「そっかぁ、あ、オジサンが紗織ちゃんの担当になりました。佐々木と言います。宜しく」

「はい、宜しくお願いします」

紗織はペコッと頭を下げた後、窓の外をボーッと見つめていた。

彼女が入院した当時は、あまりの変わり様に驚いたが、3ヶ月くらい経つと、あの明るい女の子に戻っていた。


ある日、直次は時間を見つけて、紗織がいた施設の先生を訪ねた。


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