見えない糸
水族館からの帰り道。

直次は、紗織と出会った児童養護施設に向かった。

施設を見て、紗織に何らかの変化があるか、それを試してみたかったのだ。



元々は古い施設だったが、今年建て替えたばかりで、前の面影はどこにもない。

ただ、桜の木が昔と変わらない場所で、大きくなった事だけだ。


門の前に車を止め、その桜の木を見ていると

「オジサン、ここ知ってるの?」

助手席の窓を開け、施設を見ながら紗織は言った。


「ああ、ずっと前から知ってるよ」

あの頃…
元気に挨拶していた少女は、過去を忘れた姿で現れ、今は一緒に暮らしている。


紗織は、施設の事も覚えていなかった。

まぁ、思い出させるような特別なアイテムが、この場にあるように感じなかったから、仕方がないのかもしれない。


「さて、帰るぞ」

ハンドルを回し、ゆっくりアクセルを踏みこんだ。



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