見えない糸

家に着いて、直次は直ぐにタバコに火を点けた。

紗織の反応が気になる。

紗織の事を目で追ってしまう。

今のところ変わりないように見えるが…

「オジサン」

紗織が冷蔵庫から缶コーヒーを出し、テーブルに置いて言った。

「今夜は治療しなくていいよね?」

「どうして?」

「治療したくないんだ…」

この言葉に直次は違和感を覚えた。

紗織は、それきり何も話さなくなった。

彼女の視線はテレビに向かい、直次を見る事は無かった。

紗織の表情が少しずつ曇っていく。

それはまるで『話しかけるな』と言いたげな姿に見えた。


やっぱり施設を見せたのは早かったかー

焦らずに治療を進めなきゃいけなかったのに、分かっていながらやらなかった自分自身を悔やんだ。


ここ最近で重い空気はなかったのに、久しぶりにズシッと重さを感じた。


家に着いてから、まだ1時間も経たないのに、タバコを何本も吸っている。

完全にタバコの量が増えたな…

ため息にも似たように、深く煙を吸い込んだ。


< 31 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop