見えない糸
家に着いて、直次は直ぐにタバコに火を点けた。
紗織の反応が気になる。
紗織の事を目で追ってしまう。
今のところ変わりないように見えるが…
「オジサン」
紗織が冷蔵庫から缶コーヒーを出し、テーブルに置いて言った。
「今夜は治療しなくていいよね?」
「どうして?」
「治療したくないんだ…」
この言葉に直次は違和感を覚えた。
紗織は、それきり何も話さなくなった。
彼女の視線はテレビに向かい、直次を見る事は無かった。
紗織の表情が少しずつ曇っていく。
それはまるで『話しかけるな』と言いたげな姿に見えた。
やっぱり施設を見せたのは早かったかー
焦らずに治療を進めなきゃいけなかったのに、分かっていながらやらなかった自分自身を悔やんだ。
ここ最近で重い空気はなかったのに、久しぶりにズシッと重さを感じた。
家に着いてから、まだ1時間も経たないのに、タバコを何本も吸っている。
完全にタバコの量が増えたな…
ため息にも似たように、深く煙を吸い込んだ。