見えない糸
嫌い
紗織は、あれから元気が無かった。
何かを思い出したのか...
一瞬、そんな事を過ったが、それは有り得ないだろうと、直次は首を振った。
彼女の部屋に引き篭もってる訳でもなく、ちゃんとリビングに出てくるし、直次とも会話をする。
でも、前のような感じは無かった。
どこかで直次との間に、一本の線が引かれてるような...
そんな気がしていた。
その日も、元気のない紗織からの
「いってらっしゃい」
の声だった。
こんな状態でも変わらずやってくれるのは、朝の玄関までの見送りだった。
「うん、いってくるよ」
ニコッとも笑わない紗織。
いつかは、笑ってくれる日が来るだろう...
そう自分に言い聞かせながら、玄関を出た。