見えない糸
「こんにちは。どうしましたか?」
『佐々木先生、紗織ちゃんの様子はどうですか?』
「ええ、元気ですよ」
『そうですか...あ、すみません、またかけなおします』
小谷はそう言うと、一方的に電話を切った。
何なんだろう?
ここ1~2年は紗織の様子を聞くような電話なんか無かったのに、紗織が学校を卒業してから、毎月電話してくる。
今、紗織の記憶の治療が中断してる時だから、小谷に訊かれても何も答えられない。
また急いで治療を始めたら、今度こそ失敗出来ない。
夕方、直次の携帯が鳴った。
画面には【小谷】と出ていた。
「もしもし」
『もしもし、小谷です。先程はすみませんでした』
「いえ...」
先程からは、かなり時間は経っていますけど?
そうツッコミたくなる台詞を、グッと飲み込んだ。
「御用件は何でしょうか?」
『あの、紗織ちゃんの記憶は...少しでも戻りましたか?』
一番避けたい話題だった。
「本人の気持ちを考えて、今は治療を中断してます」
『そうでしたか...あの...』
小谷は間を開けてから言った。
『先生のお宅にお邪魔したいんですが、来週のご都合はいかがでしょうか?』