見えない糸

睨むでもなく、何かを探り出すような、紗織のあんな目を見るのは、直次は初めてだった。

「おい、どうしたんだよ」

直次が紗織の肩に手をのせた。
一瞬、鋭い眼差しでこっちを見たが、すぐにいつもの紗織に戻った。

「では...私はこれで...」小谷が立ち上がった。

「え?もうですか?」直次が慌てて小谷に話しかけた。

「ええ。運転下手ですし、早めに出たら夕方迄には自宅に着きますから」

紗織はキッチンから動こうとせず、小谷の背中を黙って見ていた。

直次は駐車場まで送りに出た。

「すみません...何だかバタバタした感じでお暇してしまって...」

車の前で小谷が頭を下げた。

「いえいえ」直次も頭を下げる。

車に乗りエンジンをかけると、窓を開け「それでは」と言った。

ギアを入れ、これからアクセルを踏もうとしたタイミングで

「あの...!」と直次が声をかけた。

「何でしょうか?」

「さっき紗織に何を言ったんですか?私には聞こえなかったんですが」

小谷はフッと笑った。

「何も言ってませんよ。紗織ちゃんに言ってるなら、先生にも聞こえてるじゃありませんか」




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