見えない糸
一歩、後ろへ
小谷が家に来た日から、紗織の様子が少し違っていた。
やっぱり何か言われたんだ。
その時は頭に残っても、すぐに消えてしまうんだ。
もう一度、小谷に聞いてみようか?
その日は休みをとって、児童養護施設へ向かった。
紗織を引き取った当時の頃の、何か関係するものがないか、調べに行く為だ。
インターホンを鳴らすと「はい」と女性の声がした。
「以前お世話になった佐々木と言います。こちらにいらした小谷先生の事で...」
直次が言い終わる前に「お待ちください」と言われた。
扉が開くと、若い女性が迎えてくれた。
応接室に通されソファーに腰かけると、間もなく年配の男性が現れた。
直次は名刺を渡し、今回ここに来た訳を話した。
「私はその当時はこちらにはいなかったのですが、そのような事があったと聞いたことがあります。当時の事の全ての物があるわけではありません。かなり年数も経ってますし、小谷先生個人の物は、先生ご自身が持ってますし」
「ええ。それも承知してます。その上でこうしてこちらに…」
年配の男性は頷くと、当時の資料などを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。では拝見いたします」
アルバムには、当時の施設にいた子供達と職員が写っていた。
その中に、楽しそうに笑っている紗織も写っている。
この頃は、直次も施設に出入りしていたから知っていた。
いろんなイベント事の度に、たくさん写真を撮っていたようだ。
次のページをめくると、気になる写真があった。
「あの…取り外しても宜しいですか?」
直次が年配の男性に聞いた。
「あ、どれですか?…これですか?いいですよ」
直次がアルバムのフィルムをゆっくり剥がし、目的の写真を取り外した。
それは、紗織だけ笑っていない写真だった。
写真の裏を見ると何か書いてあった。
『高谷 進ー要注意』