見えない糸
直次の手帳に書かれている小谷の住所は、小谷が施設職員だった頃の住所とは違っていた。
今日は時間がないので、後日改めて行こう…
そう思いながら、施設の駐車場を出た。
それにしても、あの【高谷 進】という名前は誰なのか?
小谷に聞いた方が早いけど、もう少し待ってみよう。
家に帰ると、紗織は走って玄関にいた直次に抱きついてきた。
「ど、どうした?!」
紗織は震えていた。
「何かあったのか?!」
「オジサン…怖いの…」
「怖い?そんなテレビでも観てたんだろ?」
そう笑いながら、紗織の体を離し頭をポンポンと叩いて階段を登り、直次の部屋に向かった。
机の上に鞄を置き、部屋着に着替える。
ドカッと椅子に座り、タバコを取り出し火を点けた。
煙を吸うと、ジジジ…と音がする。
それを、ため息のように煙を吐き出す。
タバコを左手の人差し指と中指に挟んだまま、時々ジジジッと音をたてるが、それを口元に咥える事はなく、ただ灰が長くなって、ポトッと机の上に落ちた。
何も考えられない。
いや、考える事が多すぎて、どこから始めたらいいのか分からなくなっている。
ボーッとしていると、部屋をノックする音で我に返った。
「オジサン…いい?」