見えない糸
部屋に入ってきた紗織は、悲しそうな顔をしていた。
「どうした?」
「オジサンに言おうか悩んだんだけど…」
そう前置きした後
「あの【小谷】って人、アタシもオジサンも知らない事を知ってる」
涙声で、そう言った。
「どうして、そう言うんだ?」
「だって、あの時…アタシに言ったんだもん!」
「家に来た日に?何を言ったんだ?」
「名前を言ってた。アタシはそれが誰なのか分からない。でも、それを聞いた途端、気持ち悪くなった…」
まさかその名前は、写真の裏に書いていた【高谷 進】じゃないだろうか?
直次は背筋がザワザワッとなった。
「オジサン、やっぱり早く記憶を戻した方がいいのかな?どうして、あんなに気持ち悪くなったのかも分からないし、小谷って人はオジサンにも言ってない事が、まだある気がしてならないの...」
それは何となく分かっていた。
だから休みをとって調べに行ったのだから。
「紗織、お前は前に治療は嫌だといって止めたんだ。今度は、そういう訳にはいかないぞ。俺も小谷先生は何か隠してるんじゃないかと思ってる。多分彼女は何も言わないだろう。紗織の記憶は、紗織しか分からないからな」
「うん...アタシも覚悟は出来てる。もう逃げない!」
真剣な眼差しの紗織を見て、直次も覚悟を決めた。
どんな結果になろうと、それを受け止めようと。