見えない糸
たぐりよせる糸と絡み付く糸
治療の前に、晩ごはんは近くの蕎麦屋から出前をとった。
「オジサン、カツ丼にしたの?」
「ああ、昼メシ抜きだったから、すごく腹ペコで...紗織はざるそばだけか?食欲ないのか?」
「うん...何か考え込んじゃって...」
直次は早食いで、いつも紗織に怒られる。
今日も、あっという間に食べてしまった。
「オジサン、アタシはオジサンの身体の心配をして、ゆっくり噛んで食べてって言ってるのよ」
ため息混じりで、小言を言った。
「紗織、ちゃんと風呂入ってから始めるぞ。俺は調べ物があるから部屋に戻るからな。何時からとか時間は決めない。お前のタイミングで部屋においで」
紗織は「うん」と頷いた。
それを確認してから、直次は部屋に向かった。
鞄の中から、施設から借りた数枚の写真と、小谷の当時の住所を書いた手帳を出した。
まずはその住所を調べる。
どうやら区画整理があったらしく、今は存在しない町名だった。
「どこだ?当時の住所にあたる場所は...?」
調べ進めると、どうやら今ある施設からかなり離れた所で、今は進行住宅街になっている周辺が、当時の小谷の住所らしい。
施設の場所は変わっていないから、ずいぶん時間をかけて通っていたことが分かる。
後は、高谷 進という人が誰なのか?
小谷は絶対に知ってる!
早く聞き出さなくては...!