見えない糸
直次は寝てる紗織を部屋に残してキッチンに向かった。
冷蔵庫からビールを取り出し、ソファーに腰掛けると、それを一口飲んだ。
前回からは進んだ紗織の記憶…
『お父さんが…』
紗織の記憶の中にハッキリ残っていた別れの日。
何処を探しても紗織の父親に関する物は残っていなかった。
『お父さんの名前が分かれば…』
直次は電話横にあるメモ用紙に思ったことを書き、そのページを破り取った。
いつもなら、もうとっくに2本目のビールに手を着けてるはずなのに、考え事をしているとスローペースになる。
だいぶ温くなってしまった最後の一口のビールを飲んだ。
「ウワッ!マズ…ッ!」
直次は空き缶をシンクに置き、紗織を起こさないように静かに階段を上った。
部屋のドアをそっと開けると、紗織はベッドの上に座っていた。
「なんだ…もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。少し楽になったわ」
紗織はニコッと笑うと、ベッドから降りた。
「そうか。それなら良かったよ」
直次は服のポケットから、さっきのメモ用紙を出して、机の上に置いた。
「オジサン、今のなに?」
「ああ…さっき気になる事があったから、それを書いただけだよ」
「ふーん…それはアタシには見せられない物?」
「いや、そんな事はないけど…」
直次が全てを言い終わる前に、紗織はそのメモ用紙を取り上げた。
「…お父さんの…名前?」