見えない糸
解けていく糸
あれから1日おきに、紗織の過去の糸を手繰り寄せる『旅』をしているが、その糸は
複雑に絡みついて、そう簡単に解けなかった。
紗織も、何とか思い出そうと頑張ってくれている。
「ごめんね、オジサン」
なかなか治療が進まないと、必ずそう言う。
「謝る必要はないんだよ」
直次も同じ様に答えていた。
ただ、仕事をやりながらだから、体力的に疲れが取れなくなっているのも事実だし、ある程度調べてから治療をしようと思っていたから、今の状態じゃ時間的にも難しい。
「紗織、話があるんだ」
その日の夜、直次は、お風呂から上がってきた紗織に言った。
「改まって何?オジサン」
ソファーに座った紗織は、キョトンとして直次の方を見ていた。
「実は…しばらく仕事を休もうかと思うんだ」
「え?どうして?」
「ちゃんと、お前の治療に専念したいんだ。ある程度調べる必要もある。生活費については大丈夫だ、心配ない」
「私のせいで休むの?」
「紗織のせいじゃない。父親が娘のために考えた事だよ。どこの親も、子供の事を真剣に考えるもんさ」
紗織は少し困った顔をした。
「オジサン…どれくらい休むの?」
「とりあえず3ヶ月かな。それでも足りないかもしれない」
「そんなに?!」
「紗織、この話は今考えた事じゃないんだ。早く無理なく紗織の過去の糸を掴みたいんだ。そして、お前が心底 “ 幸せ ”と思って生きて欲しいんだ」
「オジサンはアタシが不幸せだと思ってるとでも?」
「本当に幸せかは分からないだろ?」
「幸せかどうかは、本人じゃなきゃ分からないわ!他の誰も、その人の幸せの尺度なんて分からないのに!どうして決めつけるのよ!」
目に涙を滲ませながら紗織は立ち上がると、走って自分の部屋に戻ってしまった。