見えない糸
エレベーターのない5階建ての団地の最上階が、小谷の家だった。
【8ー501 小谷】と、表札に書かれている。
鍵を開けると、ガチャン…ギー…と、玄関のドアのが開く音が、階段に響き渡った。
「どうぞ。あ、家はスリッパは無いので…」
小谷は直次をリビングへ案内した。
「失礼します」
ソファーに座ると、直次は辺りをみまわした。
2LDKの部屋に、1人で暮らしているらしい。
必要最低限の物しかない。
男っ気が無いだけでなく、生活感までもが無いように見える。
こんな言い方は失礼だとは思うが、小谷の年令を考えると『何もない』この部屋は、少し異様に感じた。
小谷はコーヒーを二人分淹れ、テーブルに置いた。
「それで…先生のご質問は?」
直次の向かい側に座った小谷が訊ねた。
直次は鞄の中から手帳を出し、そこに挟んであった写真を取って、テーブルに置いた。
「これは先日、あの施設を訪ねた時に見つけたものです。僕はこの写真の裏に書いてある名前が気になりました。一体誰なんですか?しかも【要注意】とまで書かれている。気にならない訳がありません。それに、この写真には男の子は写っていても大人の男性は写っていない」
小谷は写真の表と裏をじっくり見た後、それをテーブルに戻した。
「紗織ちゃんも写ってましたね」
「小谷さん!彼女の今後を僕にお願いしたのはアナタなんですよ。僕は彼女の父親になったんです。彼女の…娘の過去の記憶を取り戻すためには、アナタが知っている娘の情報が必要なんです!」
直次は身を乗り出しながら言った。
小谷は首を振りながら話し出した。
「先生…知らないままが幸せって事もあるんです。紗織ちゃんだけでなく、先生にとっても。全てを知らなければならない根拠は何ですか?知ってしまったばかりに不幸になる事だってあるんです。ですから、この事は知らない方がいい。あなた方2人の為にもね」
【8ー501 小谷】と、表札に書かれている。
鍵を開けると、ガチャン…ギー…と、玄関のドアのが開く音が、階段に響き渡った。
「どうぞ。あ、家はスリッパは無いので…」
小谷は直次をリビングへ案内した。
「失礼します」
ソファーに座ると、直次は辺りをみまわした。
2LDKの部屋に、1人で暮らしているらしい。
必要最低限の物しかない。
男っ気が無いだけでなく、生活感までもが無いように見える。
こんな言い方は失礼だとは思うが、小谷の年令を考えると『何もない』この部屋は、少し異様に感じた。
小谷はコーヒーを二人分淹れ、テーブルに置いた。
「それで…先生のご質問は?」
直次の向かい側に座った小谷が訊ねた。
直次は鞄の中から手帳を出し、そこに挟んであった写真を取って、テーブルに置いた。
「これは先日、あの施設を訪ねた時に見つけたものです。僕はこの写真の裏に書いてある名前が気になりました。一体誰なんですか?しかも【要注意】とまで書かれている。気にならない訳がありません。それに、この写真には男の子は写っていても大人の男性は写っていない」
小谷は写真の表と裏をじっくり見た後、それをテーブルに戻した。
「紗織ちゃんも写ってましたね」
「小谷さん!彼女の今後を僕にお願いしたのはアナタなんですよ。僕は彼女の父親になったんです。彼女の…娘の過去の記憶を取り戻すためには、アナタが知っている娘の情報が必要なんです!」
直次は身を乗り出しながら言った。
小谷は首を振りながら話し出した。
「先生…知らないままが幸せって事もあるんです。紗織ちゃんだけでなく、先生にとっても。全てを知らなければならない根拠は何ですか?知ってしまったばかりに不幸になる事だってあるんです。ですから、この事は知らない方がいい。あなた方2人の為にもね」