見えない糸
直次は怒りが爆発する寸前だった。
何が知らない方がいいだ!
紗織を育ててきたのは俺だ!
しかも、小谷から頼まれだんだ。

あの時は、小谷が知っている紗織の情報を、全て教えてくれたと思っていた。
天涯孤独になってしまった彼女を、何とか救ってあげたいと。
その気持ちは、小谷も同じだったはずだ。

それがなぜ、今更こんな形で俺達が乱されなきゃならないんだ!?
なぜ、養子を持ち掛けてきた時に、話してくれなかったんだ!?

「先生、私は先生を騙そうとした訳ではありませんのよ…」

小谷はそう言って、コーヒーカップに手を伸ばした。
小谷の言い方に、ついに直次は語気を荒立てた。

「結果、似たようなもんじゃないですか!!アナタは施設の職員だったから、紗織の変化に気付いていたはずです!僕は時々施設に顔を出す程度でしかなかった!」

コーヒーを一口飲んだ後、小谷は直次を睨み付けながら反論した。

「似たような?ちっとも似てませんよ!これから紗織ちゃんと家族として生活していくのを知っておきながら、心が乱れるような事を言う必要がありますか?そっとしておいた方がいいと私が判断したんです」

「そう思ったのなら、なぜ今になって、紗織を不安がらせるような事を言ったんですか?!」

直次は手帳を出し、メモしたページを開きながら言った。

「先日、僕の家にきた時、紗織に話したそうですね。何を話したのか分からないし、紗織も細かくは覚えてないと言ってます。でも、あなたが、僕と紗織の知らない事を知ってる気がする、そう言ってたんです。それを聞いてから、僕はいろいろ調べてるんです」

直次の話を聞いた後、小谷は深い溜め息をついた。

「もう一度言いますが、知らないままがいいって事もあるんですよ?」

「僕の考えは変わりません!」

「そうですか…」

そう言うと小谷は席を立ち隣の部屋へ行くと、一通の封筒を持って戻ってきて、それを直次に渡した。







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