見えない糸
宛名も差出人も書いてない封筒だ。

「これは?」

「見て下さい。中に先生の知りたい事が入ってます…」

直次は頷くと、封筒の中を取り出した。

一枚の写真とメモが入っていた。

写真には仲良く笑っている男女が写っている。

「ここに写ってる人は?」

「要注意人物…高谷 進です」

とても優しそうな顔をした少し浅黒い男。

“ 要注意 ” と言うから、もっと悪いイメージがあっただけに、イマイチ信じられなかった。

「この人がですか…では、隣の女性は?」

小谷はキッチンから持ってきた灰皿をテーブルに置くと、ゆっくりソファーに腰掛け、バッグからタバコを出した。

「先生も…タバコ…構いませんよ」

そう言いながら火を点けた。

「いえ…僕は。で、誰なんですか?」

小谷は煙を、まるで溜め息のように吐き出した後、直次の方を見た。

「紗織ちゃんの母親です」

色白で、笑顔が可愛いその女性は、確かに紗織に似ている。

「ところで、どうして小谷さんが持ってるんですか?要注意人物が一緒だから僕に渡せなかったというのはあっても…」

「ええ…そうね…でも理由はあるんですよ」

小谷はタバコを灰皿に強く押し当てて火を消した。

「この男は、いろんな女に手を出しては騙してきました。そんな私も被害者の1人です。この写真はバカな高谷が、私の家に忘れたものです」

こんな浮気の証拠になるものを忘れるだろうか?

要注意というより『ダメ男』じゃないのか?












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