見えない糸

車に乗り、もう一度手帳を開いた。

「あっ!」

そうだ…
小谷と紗織の母親と接触があったのか、答えを聞くのを忘れてた!

直次は慌てて車を降り、小谷の家まで小走りに行った。

玄関のチャイムを鳴らすと、目を真っ赤にした彼女が現れた。

「先生、どうしたんですか?忘れ物でも?」

「忘れ物というか、忘れた事というか…」

「玄関では何ですから…」

直次は、また小谷の部屋にあがった。

テーブルにあったコーヒーカップや灰皿は無く、スッキリとしている。

「さっきはコーヒーだったので、お茶でいいですか?」

「いや…本当にすみません…またお邪魔してしまって…」

「温かいのと冷たいの、どちらがいいですか?」

「じゃ、冷たいので…走ってきたものですから暑くて…」

小谷はグラスに氷を数個いれてから、冷蔵庫から出した麦茶を注いだ。

「あの…小谷さん大丈夫ですか?目が赤いので…」

「ああ…気にしないで下さい。過去を思い出しただけです」

お茶と灰皿を直次の前に差し出しながら言った。

「…で、先生が忘れたこととは?」

麦茶を半分まで一気に飲んだ後、呼吸を整えてもう1度聞いた。

「紗織の母親とは会ったことは無いんですか?」

小谷は『また言うのか』と呟くと、首を横に振った。

「先程も言ったように、自分から会いに行くことはありません。彼女から呼び出されたこともありません」

やっぱり無いのか…直次はグラスに残った氷を口に入れ、ガリガリッと噛み砕いた。

「あ…でも…」

小谷は少し考えながら言いだした。

「でも、何ですか?」

「彼女が私の存在を知っていたのなら、彼女の方から私のところに来ていたかもしないですね」





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