見えない糸

手帳の書き込んだページを開きながら、今日あった出来事を思い出していた。

紗織の事で知ってることを聞きたかったのに、ちゃんと聞けなかった気がするな…

今までの印象と全く違う小谷の一面に、圧倒されてしまった自分が情けなかった。

タバコを消し、パソコンを開く。

そういえば、彼女が言っていた【要注意人物】高谷の事件は、新聞に掲載されていたんだろうか?

『殺された』そう言っていたな…

直次は過去の新聞を調べようとしたが、どれも有料だった。
それに、高谷が殺されたという日を聞いていない。

「どうして肝心な所を聞かなかったんだッ!」

小谷に電話をかけるが、なかなか出ない。
何度もコール音がした後で、ようやっと声が聞こえた。

『もしもし…』

「あの、佐々木です。先程はありがとうございました」

『ああ、先生でしたか…』

「すみません、聞き忘れたことがあって」

『はぁ…何でしょうか…?』

「高谷さんの事についてなんですが、その…亡くなったのを知ったのはいつでしたか?」

もう何年も前のことだ、いくら好きな男の事でも、記憶はだんだん薄れて行くものだ。
正確な日なんて、覚えてないだろう。

少し間があってから小谷が言った。

『あの、お渡ししたい物があるので、これから会いませんか?』

帰ってきて1時間も経ってないのに、また出掛けるのは億劫だが、紗織の記憶を取り戻す為だ!

「分かりました。これからご自宅にお伺いします。1時間くらいかかってしまいますが、それでもいいですか?」


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