見えない糸
別れても諦められない恋というのだろうか。
例え都合のいい女にされても、離れて行かれるよりは、ずっといいと言う事なんだろうか。
直次には分からなかった。
何故なら、そこまで誰かを愛したことも、愛されたことも無かったからだ。
コーヒーを一口飲み、また記事に目を落とすと、小谷が口を開いた。
「その記事を読んだ後、信じたくない思いで、紗織ちゃんの自宅に行ったんです。そこには、たくさんの人がいました...」
「その時、紗織は?」
「施設にいました...」
「え?小谷さんの、あの施設ですか?」
「ええ。家に泊まってて...その日は紗織ちゃんと一緒に施設に行ったんですが、どうしても気になって紗織ちゃんの自宅へ...」
泊まってた?
何だかおかしい。
小谷は紗織の母親には会ったことがないと言っていた。
小学生の子供を、会ったこともない大人に預けるものか?!
「小谷さん...本当に正直に言ってますか?あなたが僕に話してくれた事が、嘘の無い事実なんですか?」
「どうしてですか?!」
「やはり、あなたは紗織の母親に会ってますね?」
「どうしてですか!!」
小谷は怒鳴るように直次に言った。
「今まで施設に遊びに来ていても、ちゃんと家に帰っていた紗織が、帰らないまま小谷さんの家に泊まるなんて、有り得ないでしょ。紗織の保護者である母親が、夫の浮気相手のあなたに、娘を預けるなんて...普通じゃ考えられないでしょ?」
小谷は黙ったまま直次を見ていた。
睨み付ける瞳は涙で潤んでいた。