見えない糸
「すみませんでした」
直次はリビングに戻り、ソファーに腰かけた。
「では小谷さん、お話しして頂けますか?」
直次の問いかけに、小谷は小さく頷いた。
「まず、紗織の母親とは、いつからの知り合いですか?」
直次は手帳を開き、ペンを持った。
「彼女とは前からの知り合いでした。高谷の存在は話してません。彼女の前の旦那さんの事は知らないです。バツイチだとは聞いてました。紗織ちゃんの事は彼女から写真を見せてもらってました。紗織ちゃんが小学校の3年生くらいの時に、施設に遊びに来た時に初めて会いました。高谷を紹介したのは、その頃です」
「その頃は高谷さんと別れていたんですか?」
「別れていたというか、多分...高谷自身は私と付き合ってるという感情は無かったのかもしれません。同棲してた訳でも、将来の話をしていた訳でもありませんし...世話してくれる女友達とでも思っていたのかも...」
聞けば聞くほど、直次には理解できなかった。
小谷の “思い込み” だけで?
それだけで、お金を貸すなんて出来るものか?
利用されてると思っても、それでも縁を切れなかったのか?
直次は頭の中で起こる謎を抑えて、彼女の話に耳を傾けた。
「こんな事言えば、更に先生は分からないでしょうけど…高谷と紗織ちゃんの母親は、上手く行かないと思っていたんです」
「上手くいかない?」
「ええ…高谷の方が彼女に捨てられると思っていたんです」
あの写真を見る限り、紗織の母親は、おっとりした感じに見える。
そんな人が、自分から男に別れを言えるだろうか?
逆に、高谷に振り回されるように見えるが。
そもそも、どうしてそんな男を紹介したんだろうか?
そんな【悪い男】を紹介するなんて…
自分が友人に紹介するなら、素敵な人を紹介するが。
小谷の本心は何なんだ?