見えない糸
直次にとって、小谷の言動には不可解なものばかりだった。
「小谷さん」
直次は少し言葉を選びながら話し出した。
「今までの話を聞いて、僕だったら、そんな付き合ってるかどうか分からない相手に、お金を貸すなんてしませんね。ジュースやタバコ代くらいの金額じゃなかったでしょ?」
小谷は黙ったまま、また下を向いてしまった。
これじゃ話も進まないな...
もう少し気持ちが落ち着いた時じゃなきゃ、話せるものも話せないのかもしれない。
直次は手帳を閉じると、それとタバコを鞄に入れた。
「すみませんが、僕、今日はこれで帰ります。この箱の中の物、お借りしていいですか?」
小谷は小さく頷いた。
玄関を出ようとした時、
「わざわざ来ていただいたのに、答えられなくて...」
涙声の小谷が、頭を下げながら弱々しく言った。
「まぁ...えっと...またお会いして話を聞かせていただきます。では...」
直次は軽く会釈して、小谷の家を後にした。
話のつじつまが合わないというか、どうもしっくりこない。
本当の部分を知られたくないのか?
だから小谷は何度も『知らないままがいい』みたいな事を言っていたのか?
自分の気持ちは変わらない。
真実が何であろうと、それを受け止める覚悟は出来ている。
紗織の父親は自分なのだから。