見えない糸
次々と注文し、目の前に沢山の料理が並んでいく。
「なぁ紗織、もう少しペース落とさないか?」
「これくらい、オジサンならすぐに食べちゃうでしょ?」
ジョッキのビールが空になるペースも、いつもより早すぎる。
「紗織、大丈夫か?いつもと全然違うぞ?そんな飲み方したら具合悪くするぞ」
「大丈夫だって!」
ヤケになってるように見えて、直次は心配になった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「別に何もないよ...」
笑いながら言う紗織だけど、そのセリフの裏があるような気がしていた。
「何か思う事とか悩みあるなら言ってくれよな」
直次はジョッキに残ったビールを一気に飲み干した。
楽しい食事になるかと思っていたけど、紗織の、いつもと違う様子に、直次も言葉がでなかった。
店には笑い声がたくさん聞こえるのに、二人にはそれがなかった。
もう、この空気に耐えられない。
「紗織、出ようか」
直次が席を立つと、紗織も黙って立ち上がった。
自宅までの距離を、何の会話もなく並んで歩く。
こんなに沈んだ顔をした紗織を見るのは、久しぶりだった。
もうすぐ家に着くという時、紗織が口を開いた。
「何か私のこと、わかった...?」